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カルチャーショック期 / 回復期  赴任後1ヶ月~6ヶ月ほど

- あなたも、気づかぬうちに…

数年前、私が拠点長として香港に赴任して、早々のことでした。

現地の香港人メンバーと、少しでも早く信頼関係を築きたい。 彼らのことをもっと知りたい。そんな私は、しばらくしてから、彼らを夕飯に誘うことにしました。

 

「Shall we have a quick dinner today? (今日の夜、飲みに行かない?)」

「…Maybe next time(…今度ね)」

 

きっと今日は都合が悪かったんだろう、そう考えた私は、また数週間後、メンバーと一緒に外出した夕方に、もう一度誘ってみました。

「Do you have time to drink a cup of tea? (ちょっとお茶していかない?)」

「Ah…Maybe next time(…今度ね)」

同じようなやりとりが、他のスタッフとも続き、不安を覚えるようになっていきました。「果たして、何かマズイことでもしてしまっただろうか」と眠れぬ夜を過ごすようになったのでした。

 

『異文化理解力』の著者、エリン・メイヤー氏は、ビジネスシーンにおける異文化理解に特化し、コミュニケーションギャップが生じやすい「8つのマネジメント領域(あるいは、分野)」に沿って国別の特徴を捉え、理解し、対応していくための示唆を与えてくれます。

Eight management areas

この視点で今回のケースを振り返ってみましょう。

私が無意識に選択していた「部下をお酒に誘う」という行動は、平たく言えば、日本流の「飲みニケーション」です。 スタッフから「関係」をベースにした信頼を勝ち取ろうとしたものだったと言えます。

もうひとつ、4の「リード」の領域では、「あなたにとって良い上司とは何か?」という問いによって、文化による違いが見えてくるものです。

 

たとえば「階層主義」を重んじる文化圏では、上位者が明確な方針を発信し、何事も上位者の同意や判断を得ることが、組織運営上重要であり、お互いに対する敬意だと捉える傾向があります。(日本や韓国、インドなど)

いっぽうで「平等主義」の文化圏では、ポジションの上下に関係なく、皆がフラットな立場で意見を出し合い、役割を全うする傾向があります。時には、ポジションを飛び越えて、課題解決に取り組むこともあります。(デンマーク、オランダ、スウェーデンなど)

この領域における私の「飲みニケーション」を振り返ると、「階層主義」の前提からくる、「上司の誘いは、断らないだろう」という、思い込みの上に立った誘い方だったのだと思います。自分でも気づかぬうちに、「日本的な文化」にのっとってことを進めようとし、うまくいかない理由が分からず、心理的ショックが起きてしまっていたのです。

この「気づかぬうちに」という点こそ、文化による違いがやっかいなものである所以です。

しばらくして、香港駐在の長い方が、こう教えてくださいました。

「香港人は、たとえ上司の誘いであっても、当日の誘いだと飲みに行かないことが多いよ。会社の飲み会は業務の一環と捉えるようだし。そもそも、ご飯のときには、お酒を飲まないしね」

世界では、文化的特長が日本と近しいとされる香港ですが、それでも、「私」と「彼ら」の前提には、やはり、違いがあったのです。

このように自分が持っている気づかぬ前提を知ることで初めて、相手との「違い」を認識することができます。多くの見えない「違い」が存在する環境に飛び込む私たちは、まずは自分自身をよく理解し、自分が持っている気づかぬ前提をも理解しておく必要があるのです。

グローバルリーダーにとって、「自己認識」を高めることは、多くの「違い」に向き合うためにも必要な準備です。そうして他者との「違い」に向き合い、自分の特徴を知り、求められている能力とのギャップに向き合ったとき、私たちの中に「変化へのコミットメント」が生まれてくるのではないでしょうか。

Culture Shock

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